「もしイタ」について
【作品について】
上演時間は約60分。笑いあり涙ありの高校生活劇です。
東日本大震災によってチームメイトや家族を失い、青森に転校してきた主人公の成長を描きます。
本作は舞台装置や小道具を用いず、照明も音響も使いません。演劇部員全員が舞台を駆け回り、劇中歌を歌い、効果音を肉声で発します。「被災した方々のためになにかさせていただきたい」という部員の希望から生まれた本作は避難所や集会所など「どこでもやれる」必要があったのです。
2011年9月から足かけ9年で全国の22都府県50市町と韓国・ソウルで104ステージ上演(2020年3月時点)。そのうちの八戸市、気仙沼市、大船渡市、釜石市、久慈市、仙台市、利府町、宮古市、盛岡市、陸前高田市、石巻市、山元町、塩竃市(野々島)、郡山市、いわき市、女川町、熊本市での公演は被災地応援公演として行われました。移動の多くはバス。その費用の大部分は募金で賄われました。会場の多くは避難所として使われた体育館や集会場で、観客の多くは隣接する仮設住宅団地の住人の方々でした。部員たちは壊滅した港町を歩き、瓦礫の山をいくつも見上げ、いくつもの避難所を清掃しました。自分なりに被災地と向き合うことで、演じる事への覚悟を固めていきました。
本作は第58回全国高等学校演劇大会(2012年)で最優秀賞を受賞。同校演劇部として3度目の日本一を獲得しています。2014年11月には国内有数の国際演劇祭「フェスティバル/トーキョー」、2014年4月には韓国ソウルで行われる国際芸術祭「フェスティバル・ボム」に招待され、好評を得ました。また本作は2015年の映画「幕が上がる」(主演:ももいろクローバーZ)で取り上げられ、全国的な話題となりました。NHKEテレでも繰り返し放送され、多くの演劇ファンに愛されています。
【あらすじ】
2011年5月。青森市にある某県立高校。その野球部に一人の女子マネージャーが入部します。彼女は1年生の頃、陸上部に入部しており、やり投げでインターハイに出場したほどの選手でしたが怪我のため現役を断念し、しかも陸上部が廃部になったため、2年生のこの時期に野球部に入部したのです。しかし肝心の野球部は部員が8人しかおらず、やる気のかけらもありません。一念発起した新人マネージャーは部員勧誘に乗り出し、ある転校生に目を留めます。彼は被災地の学校からこの春転校してきたばかりで、前の学校では野球部に所属していたというのです。「野球は辞めた」と言いはる彼をなんとか説得した彼女は「今度はちゃんとしたコーチに来て貰おう」と学校に掛け合います。しかしやってきたコーチはなんと、盲目の老婆、イタコでした。「ワの言うことを聞げば絶対甲子園さ行げる」と宣言する老婆。野球部はいったいどうなってしまうのでしょうか?